2017年06月13日

猫の墓

カールが販売中止になるって決まったら、一時的にスーパーの棚からカールが消えた。売れすぎちゃって品切れだよって張り紙も見た。まぁ、元々販売中止になるほど不人気だったので、復活しちゃったけどね。


で、これってなんか聞いたことあるなって考えてたんだけど、これだ!

猫が生きている間は家族みんな全く無関心だったのに、いざその猫が死んだらその途端にみんな泣いてお墓作って大騒ぎする話だよ。
夏目漱石の短編集(?)『永日小品』の中にある「猫の墓」
全部読みたい方は永日小品
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猫の墓

 早稲田へ移ってから、猫がだんだん瘠(や)せて来た。いっこうに小供と遊ぶ気色(けしき)がない。日が当ると縁側(えんがわ)に寝ている。前足を揃(そろ)えた上に、四角な顎(あご)を載せて、じっと庭の植込(うえこみ)を眺めたまま、いつまでも動く様子が見えない。小供がいくらその傍(そば)で騒いでも、知らぬ顔をしている。小供の方でも、初めから相手にしなくなった。この猫はとても遊び仲間にできないと云わんばかりに、旧友を他人扱いにしている。小供のみではない、下女はただ三度の食(めし)を、台所の隅(すみ)に置いてやるだけでそのほかには、ほとんど構いつけなかった。しかもその食はたいてい近所にいる大きな三毛猫が来て食ってしまった。猫は別に怒(おこ)る様子もなかった。喧嘩(けんか)をするところを見た試(ため)しもない。ただ、じっとして寝ていた。しかしその寝方にどことなく余裕(ゆとり)がない。伸(の)んびり楽々と身を横に、日光を領(りょう)しているのと違って、動くべきせきがないために――これでは、まだ形容し足りない。懶(ものう)さの度(ど)をある所まで通り越して、動かなければ淋(さび)しいが、動くとなお淋しいので、我慢して、じっと辛抱しているように見えた。その眼つきは、いつでも庭の植込を見ているが、彼(か)れはおそらく木の葉も、幹の形も意識していなかったのだろう。青味がかった黄色い瞳子(ひとみ)を、ぼんやり一(ひ)と所(ところ)に落ちつけているのみである。彼れが家(うち)の小供から存在を認められぬように、自分でも、世の中の存在を判然(はっきり)と認めていなかったらしい。
 それでも時々は用があると見えて、外へ出て行く事がある。するといつでも近所の三毛猫から追(おっ)かけられる。そうして、怖(こわ)いものだから、縁側を飛び上がって、立て切ってある障子(しょうじ)を突き破って、囲炉裏(いろり)の傍まで逃げ込んで来る。家のものが、彼れの存在に気がつくのはこの時だけである。彼れもこの時に限って、自分が生きている事実を、満足に自覚するのだろう。
 これが度(たび)重なるにつれて、猫の長い尻尾(しっぽ)の毛がだんだん抜けて来た。始めはところどころがぽくぽく穴のように落ち込んで見えたが、後(のち)には赤肌(あかはだ)に脱け広がって、見るも気の毒なほどにだらりと垂れていた。彼れは万事に疲れ果てた、体躯(からだ)を圧(お)し曲げて、しきりに痛い局部を舐(な)め出した。
 おい猫がどうかしたようだなと云うと、そうですね、やっぱり年を取ったせいでしょうと、妻(さい)は至極(しごく)冷淡である。自分もそのままにして放(ほう)っておいた。すると、しばらくしてから、今度は三度のものを時々吐くようになった。咽喉(のど)の所に大きな波をうたして、嚏(くしゃみ)とも、しゃくりともつかない苦しそうな音をさせる。苦しそうだけれども、やむをえないから、気がつくと表へ追い出す。でなければ畳(たたみ)の上でも、布団(ふとん)の上でも容赦(ようしゃ)なく汚す。来客の用意に拵(こしら)えた八反(はったん)の座布団(ざぶとん)は、おおかた彼れのために汚されてしまった。
「どうもしようがないな。腸胃(ちょうい)が悪いんだろう、宝丹(ほうたん)でも水に溶(と)いて飲ましてやれ」
 妻(さい)は何とも云わなかった。二三日してから、宝丹を飲ましたかと聞いたら、飲ましても駄目です、口を開(あ)きませんという答をした後(あと)で、魚の骨を食べさせると吐くんですと説明するから、じゃ食わせんが好いじゃないかと、少し嶮(けん)どんに叱りながら書見をしていた。
 猫は吐気(はきけ)がなくなりさえすれば、依然として、おとなしく寝ている。この頃では、じっと身を竦(すく)めるようにして、自分の身を支える縁側(えんがわ)だけが便(たより)であるという風に、いかにも切りつめた蹲踞(うずく)まり方をする。眼つきも少し変って来た。始めは近い視線に、遠くのものが映るごとく、悄然(しょうぜん)たるうちに、どこか落ちつきがあったが、それがしだいに怪しく動いて来た。けれども眼の色はだんだん沈んで行く。日が落ちて微(かす)かな稲妻(いなずま)があらわれるような気がした。けれども放(ほう)っておいた。妻も気にもかけなかったらしい。小供は無論猫のいる事さえ忘れている。
 ある晩、彼は小供の寝る夜具の裾(すそ)に腹這(はらばい)になっていたが、やがて、自分の捕(と)った魚を取り上げられる時に出すような唸声(うなりごえ)を挙(あ)げた。この時変だなと気がついたのは自分だけである。小供はよく寝ている。妻は針仕事に余念がなかった。しばらくすると猫がまた唸(うな)った。妻はようやく針の手をやめた。自分は、どうしたんだ、夜中に小供の頭でも噛(かじ)られちゃ大変だと云った。まさかと妻はまた襦袢(じゅばん)の袖(そで)を縫い出した。猫は折々唸っていた。
 明くる日は囲炉裏(いろり)の縁(ふち)に乗ったなり、一日唸っていた。茶を注(つ)いだり、薬缶(やかん)を取ったりするのが気味が悪いようであった。が、夜になると猫の事は自分も妻もまるで忘れてしまった。猫の死んだのは実にその晩である。朝になって、下女が裏の物置に薪(まき)を出しに行った時は、もう硬くなって、古い竈(へっつい)の上に倒れていた。
 妻はわざわざその死態(しにざま)を見に行った。それから今までの冷淡に引(ひ)き更(か)えて急に騒ぎ出した。出入(でいり)の車夫を頼んで、四角な墓標を買って来て、何か書いてやって下さいと云う。自分は表に猫の墓と書いて、裏にこの下に稲妻(いなずま)起る宵(よい)あらんと認(したた)めた。車夫はこのまま、埋(う)めても好いんですかと聞いている。まさか火葬にもできないじゃないかと下女が冷(ひや)かした。
 小供も急に猫を可愛(かわい)がり出した。墓標の左右に硝子(ガラス)の罎(びん)を二つ活(い)けて、萩(はぎ)の花をたくさん挿(さ)した。茶碗(ちゃわん)に水を汲(く)んで、墓の前に置いた。花も水も毎日取り替えられた。三日目の夕方に四つになる女の子が――自分はこの時書斎の窓から見ていた。――たった一人墓の前へ来て、しばらく白木の棒を見ていたが、やがて手に持った、おもちゃの杓子(しゃくし)をおろして、猫に供えた茶碗の水をしゃくって飲んだ。それも一度ではない。萩の花の落ちこぼれた水の瀝(したた)りは、静かな夕暮の中に、幾度(いくたび)か愛子(あいこ)の小さい咽喉(のど)を潤(うる)おした。
 猫の命日には、妻がきっと一切(ひとき)れの鮭(さけ)と、鰹節(かつぶし)をかけた一杯の飯を墓の前に供える。今でも忘れた事がない。ただこの頃では、庭まで持って出ずに、たいていは茶の間の箪笥(たんす)の上へ載せておくようである。
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sunatama at 23:30│Comments(2)TrackBack(0)clip!日記(14) 

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この記事へのコメント

1. Posted by とく   2017年06月14日 18:54
クソ禿
2. Posted by すな   2017年06月15日 00:31
とくさんは本物だけど、やぼん?しげよし?..わからん....orz

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